2016年、ポールは新たなツアー・タイトルを「ONE ON ONE TOUR」と題してツアーに出ることになる。ポールは戦前の昭和17年生まれ、2017年には75歳になる後期高齢者である。この後、どれだけツアーに出ることができるだろうか。おそらく体力的にも、年齢的にも、5年後にはこのような大規模なツアーは行なっていないであろう。そしてその自覚は本人にもあるのではないか。なので、出来る時に後悔のないよう可能な限りステージに立っておこうという、焦りではないが、そのような人生の締めくくりを考えているのではないか。ポールが一切ツアーに出ていない80年代を経験しているファンにとっては、現在のように毎年ツアーを行なっているポールを信じられない思いで見ているに違いない。
その2016年から始まったONE ON ONEツアーは2年目に突入した。そして2016年大晦日、紅白歌合戦にメッセージを寄せるという形で日本公演が発表されたのである。これはONE ON ONEツアーとして初めての日本公演であるだけでなく、2017年に入って一番最初のコンサートの地として日本が選ばれたことになる。この日本公演に向けて改めてリハーサルをしていることが本人に口から語られ、年が変わり、新たなONE ON ONEツアーが期待される、そのお披露目が日本だったのである。当初、東京ドームで3公演が発表され、その後武道館が再び追加で発表された。個人的には武道館は一度きりであることに価値があったと思っているのだが、何はともあれ公演数が増えるのはファンとしては嬉しい限りである。2017年ポールの来日公演の日程は以下の通り。
年々来日公演を重ねるたびに公演数が減っていくのが気になるが、熱心なファン以外にとっては「また来るの?」という論調で語られている部分もあり、致し方ないことかもしれない。特に前2度の来日公演は同じOUT THEREツアーということもあり、なおの事そのように受け取られていることは理解している。しかし今回は新たにツアー・タイトルを変えての来日公演である。もちろんセットリストにも変化があり、今まで聴くことができなかったONE ON ONEツアーならではの曲に注目が集まっていた。本作は、この2017年来日公演初日の4月25日武道館公演をIEM音源とAUD音源をミックスしたもので完全収録している。
オープニングはONE ON ONEツアーの最大の特徴である「A Hard Day's Night」で開幕する。オリジナルではジョンが歌っていたパートもポールが通して歌うというものである。そしてアメリカや欧州では2曲目に「Save Us」が組まれていたが、今回武道館では何と「Jet」である。続いて「Drive My Car」、そして「Junior’s Farm」と、今までにないパターンで、前回同様、次にどんな曲を演奏するのかワクワク感を煽られる序盤の展開である。特に「Jet」と「Junior’s Farm」は同系統の曲で、従来お互いを補完する役割を果たしていたが、今回のように2曲とも演奏されるのは初めての事である。「Maybe I’m Amazed」では声がかなりキツそうで、しかも歌詞をミスするという違和感のある演奏だが、もはや作者であるポール本人の演奏と歌唱で聴けるという事に意義があるといえよう。
アコースティック・コーナーでは久しぶりの「Everynight」に続き、「In Spite Of All Danger」と「Love Me Do」の2曲は日本のファンにとって初めてのものである。さらに珍しいバージョンとなったのは「Blackbird」であろう。曲の後半で演奏が怪しくなり、ギターを一瞬間違えてしまう。その箇所では上手く乗り越えたが、動揺したのか、直後にまたミスをしてしまい、曲の途中にも拘わらず ”wait a minutes” (ちょっと待って)と仕切り直すシーンがある。この箇所で観客が盛り上がり、それを受けて、真面目なメッセージを込めた「Blackbird」において、なんとポールが歌いながら吹き出しているのである。そして刻むように “トゥ、ビィ、フリィ” と歌い方を変えている。とんだハプニングである。また、「Magical Mystery Tour」はオープニングのイメージが強いが、1993年THE NEW WORLD TOUR同様、今回は後半の途中で演奏されている。
さて、この武道館公演において、2017年に新たに加わったONE ON ONEツアーの曲として、「I Wanna Be Your Man」が挙げられる。2016年にリンゴが来日公演を行ない、一足先に演奏しているが、今度はポールのセルフ・カバーである。本人の口から日本初公開という説明が(日本語で)なされている。1993年のライヴ・アルバム『Paul Is Live』にサウンドチェックからの音源として既にライヴ・バージョンが収録されているので、前回の「Another Girl」ほどの衝撃はないし、イベントとはいえ、前年のDESERT TRIPにおいて既に演奏しているので、これはあくまで「日本初公開」という意味である。
またワールド・プレミア、世界初演曲がある。厳密にはライヴで演奏するのは初めてではないのだが、珍しい選曲であることに違いない。それが「SGT. Pepper's Reprise」である。「東京では演奏したこがない曲」という説明がなされたのだが、これはポールの記憶違いで、1990年来日公演では「SGT. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」とメドレーで演奏されているし、2002年来日公演の最後はこの曲と「The End」のメドレーであった。ただ、今回のように単体で演奏されるのは世界で初めての事である。
LIVE AT THE BUDOKAN HALL TOKYO JAPAN APRIL 25, 2017 BUDOKAN CONCERT
DISC ONE 01. Introduction 02. A Hard Day's Night 03. Jet 04. Drive My Car 05. Junior's Farm 06. Let Me Roll It 07. I've Got A Feeling 08. My Valentine 09. Nineteen Hundred And Eighty Five 10. Maybe I'm Amazed 11. We Can Work It Out 12. Everynight 13. In Spite Of All Danger 14. Love Me Do 15. Blackbird 16. Here Today 17. Queenie Eye 18. Lady Madonna 19. I Wanna Be Your Man 20. Magical Mystery Tour 21. Being For The Benefit Of Mr.Kite
DISC TWO 01. MC 02. Ob La Di Ob La Da 03. SGT.Pepper's Reprise 04. Back In The U.S.S.R. 05. Let It Be 06. Live And Let Die 07. Hey Jude 08. Yesterday 09. Hi Hi Hi 10. Golden Slumbers - Carry That Weight - The End
BUDOKAN SOUNDCHECK
DISC THREE 01. Instrumental Jam #1 02. Honey Don't 03. Magical Mystery Tour #1 04. Magical Mystery Tour #2 05. Save Us #1 06. Instrumental Jam #2 07. Instrumental Jam #3 08. Save Us #2 09. Drums 10. Let 'Em In 11. Love Me Do 12. Queenie Eye 13. Bluebird 14. Ram On 15. Under Pressure
EXTRA 16. Messege For Japan #1 17. Messege For Japan #2 18. Messege For Japan #3 19. Messege For Budokan Concert 20. Japan Tour Spot #1 21. Japan Tour Spot #2 22. Q&A from Japanese Fans 23. One On One Tour Spot